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解雇・退職勧奨・雇止めの法律相談Ⅱ 最新青林法律相談55


著者・編者浅井 隆

発行元青林書院

発行年月日2025(令和7)年11月10日


書籍説明

■解説

労働契約の終了における「有効」・「無効」判断の分岐点とは
●最新裁判例の中から判断が分かれた参考事例を抽出!
●労働契約終了の判断において重視された「事実」を分析!
●「有効」判断の獲得に役立つ「実務上のポイント」を詳解!


はしがき
 本書は、労働契約が終了する主な形態3つ、すなわち解雇(懲戒解雇も含む
)、退職勧奨(合意退職)、雇止めに関し、最新の裁判例を基に、どういう場合
に有効となり、どういう場合に無効となるかを解説した本です。さまざまなケ
ースがあるので、Ⅰ巻とⅡ巻の2分冊となっています。Ⅰ巻が普通解雇、Ⅱ巻
が懲戒解雇、退職勧奨(合意退職)、雇止めに関するものです。
 労働契約は労働債務と賃金支払債務の双務有償契約ですが、その契約が有効
に終了しないと紛争となります。例えば、解雇が無効だと労働契約は有効に終
了せず、労働者から賃金を将来に亘って請求し続けられます。有期労働契約の
使用者側からの期間終了の通知(雇止め)にしても、更新につき合理的期待の
ある有期労働契約では、上記解雇と同様の紛争となります。退職勧奨にしても
、有効な合意解約が成立しなければ、同様です。
 たしかに、解雇にしても、雇止めにしても、それぞれの有効要件は法律に規
定されていますが(普通解雇では、労働契約法第16条の解雇権濫用法理、懲
戒解雇では、さらに同法第15条の懲戒権濫用法理、雇止めでは、同法第19
条の雇止め法理、なお、退職勧奨では、民法第95条の錯誤、同第96条の詐
欺・強迫の規定等)、規定の内容は抽象的で判断が難しいものです。
 それでも、労働契約を有効に終了させることは、労働紛争の予防のため、万
一労働紛争となったときでも早期の合理的解決のため、不可欠なことです。
 ただ、どのようにしたら労働契約を有効に終了させることが出来るかです。
これは、労働紛争につき裁判所がどういう事実を重視してどのように判断をし
たかが参考になります。その裁判例は、最新のものであればあるだけ参考にな
ります。
 そこで、本書では、最新の裁判例を参考に、労働契約の終了の主な形態であ
る解雇(懲戒解雇も含む)、退職勧奨(合意退職)、雇止めにつき、出来るだ
け多くのケースを取り上げ、使用者側が勝っているケースと敗けているケース
をそれぞれ分析し、どのケースではどういう事実が重視されるかを抽出するこ
とで、どのようにしたら(どのような事実を積み上げたら)、解雇(懲戒解雇
も含む)、退職勧奨(合意退職)、雇止めが有効となるかを、さまざまなケー
ス毎に解説することとしました。
 もっとも、こういう解説には何人もの優秀な弁護士が必要です。そこで、西
頭英明先生、柏戸夏子先生、友永隆太先生、荒井徹先生といった優秀な弁護士
に分担してもらいました。
 本書が、使用者がその雇用する労働者との労働契約を終了させるとき、労働
紛争を回避(予防、発生しても早期の合理的解決)する一助となれば幸甚です。
 最後に、本書の刊行に向けてご尽力いただいた青林書院編集部の鈴木広範氏
に心からお礼を申し上げます。
 
令和7(2025)年10月
第一芙蓉法律事務所     
執筆者代表 弁護士 浅井 隆



編著者
浅井  隆(あさい たかし)
弁護士(第一東京弁護士会)
第一芙蓉法律事務所
〒100-6012 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング12階
TEL 03-3519-7070 FAX 03-3519-7077

執筆者
友永 隆太(ともなが りゅうた)
弁護士(第一東京弁護士会)
杜若経営法律事務所
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-20 第2龍名館ビル8階
TEL 03-6275-0691 FAX 03-6275-0692
【執筆担当】第2章「懲戒解雇」Q41~Q56

荒井  徹(あらい てつ)
弁護士(第一東京弁護士会)
第一芙蓉法律事務所
【執筆担当】第2章「懲戒解雇」Q57、第3章「退職勧奨」Q58~Q68

西頭 英明(さいとう ひであき)
弁護士(第一東京弁護士会)
第一芙蓉法律事務所
【執筆担当】第4章「雇止め」Q69~Q84
(執筆順)

■書籍内容

第2章 懲戒解雇
Q41■ 配転命令違反と懲戒解雇
 「配転命令違反は懲戒解雇が有効になる」と聞いたことがありますが、配転命令を
 拒否する従業員に対しては懲戒解雇を行ったとしても原則有効になると考えて問題
 ないのでしょうか。また、配転命令拒否が予想される場合、会社としてどのような
 点に留意して対応を進めていくべきでしょうか。
Q42■ 競業会社設立と懲戒解雇
 在職中に競業会社を設立した者やこれに加担した者に対する懲戒解雇の有効性が争
 われる際、どのような点が裁判の判断の分かれ目となるのでしょうか。有効例、無
 効例の判断の分かれ目はどのような点にありますか。
Q43■ 情報持ち出し・漏洩と懲戒解雇
 労働者が会社の重要な情報を持ち出したり漏洩したことに対する懲戒解雇にあたり
 、どのような点に留意すべきでしょうか。また、情報持ち出し又は漏洩に対する懲
 戒解雇の有効性が争われる場合、どのような点から無効主張がなされるのでしょう
 か。
Q44■ 職務懈怠と懲戒解雇
 勤務時間中に私的な物品売買行為、長時間のスマートフォン操作等、明らかに業務
 に無関係な行為を継続している労働者がいます。このように勤務時間中に業務を行
 わない労働者に対しては、どのような状況に至ったら懲戒解雇もなし得るのでしょ
 うか。
Q45■ 外部に対するハラスメント行為と懲戒解雇
 アカデミックハラスメントや介護施設利用者に対するわいせつ行為等、立場を利用
 して利用者に対するハラスメント行為等を行った者に対しては懲戒解雇等厳重な対
 処が必要であると考えています。仮に懲戒解雇が争われた場合、どのような点が有
 効性を分けるポイントになりますか。懲戒解雇を行うにあたってあらかじめどのよ
 うな点を確認しておくことが必要でしょうか。
Q46■ 名誉信用を害する発信行為と懲戒解雇
 メール、記者会見や取材に対するコメントにより使用者の名誉を害したことを理由
 に懲戒解雇を実施することはできますか。また、無効といわれないための実務上の
 留意点はありますか。
Q47■ 通勤手当の不正受給と懲戒解雇
 通勤手当を実際の通勤経路と異なる方法で申請し、会社から不正に受給している従
 業員がいます。これは会社に対する詐欺に他ならないので懲戒解雇を実施すべきも
 のと考えていますが、どのような点に留意して懲戒解雇実施の有無を検討すべきで
 しょうか。
Q48■ 窃盗・横領と懲戒解雇
 労働者が商品等や金銭を窃取・横領していたことに対する懲戒解雇にあたり、どの
 ような点に留意すべきでしょうか。仮にその有効性が争われた場合には、労働者側
 はどのような観点から懲戒解雇無効の主張を行ってくるのでしょうか。
Q49■ 金銭事案に対する懲戒解雇と犯人性認定枠組み
 社内で金銭の窃盗を行ったと思われる労働者に対する懲戒解雇を検討していますが
 、対象労働者は犯行を否認しています。状況からは当該労働者による犯行だろうと
 考えていますが、訴訟の中ではどのような事情があれば犯人性が肯定されるのでし
 ょうか。犯人性が否定されている裁判例ではどのような点がネックになっています
 か。
Q50■ 査定過大申告と懲戒解雇
 賞与査定の前提となる業務実績の事実を長年にわたり虚偽報告し、賞与を過大に受
 給していた労働者がいます。この者に対し使用者として懲戒解雇又は諭旨解雇を行
 うことを検討していますが、検討にあたってどのような点に留意すべきですか。
Q51■ 懲戒解雇理由の追加の可否・
 労働者に対して懲戒解雇を通告した後、懲戒解雇通告時には判明していなかった他
 の非違行為が発覚しました。懲戒解雇の有効性が訴訟で争われた際は、後から判明
 した非違行為も併せて、先に行われた懲戒解雇の有効性を基礎付ける理由として使
 うことはできるのでしょうか。また、仮にこれが許されない場合には、実務対応と
 してどのような手立てが考えられますか。
Q52■ 懲戒解雇に伴う予備的普通解雇の有効性判断枠組み
 労働者に対する懲戒解雇を実施するにあたり、万一懲戒解雇が無効と判断された場
 合に備えて、念のため懲戒解雇とは別に普通解雇も通知しておきたいと思います。
 このようないわゆる「予備的普通解雇」を行うことは許されるのでしょうか。また
 、予備的普通解雇を行うにあたって実務上どのようなポイントに気を付けるべきで
 すか。
Q53■ 懲戒解雇が無効となった場合の慰謝料
 懲戒解雇の対象となった労働者より訴訟が提起され、懲戒解雇が無効であることを
 前提とする地位確認に加えて慰謝料の請求がなされています。懲戒解雇が無効とな
 った場合には、労働者から使用者に対する慰謝料請求も常に認められるものなので
 しょうか。懲戒解雇が無効となったときに慰謝料請求が認容される場合、認容され
 ない場合があるとすると、どのような点が結論が分かれるポイントとなっているの
 でしょうか。
Q54■ 懲戒解雇時の退職金不支給扱いの可否
 懲戒解雇に伴って退職金を不支給とする扱いについて、裁判所はどのような点から
 当該扱いの有効性を判断していますか。また、実務対応としては懲戒解雇にあたっ
 ても退職金は一部支給する等の対応をとったほうが無難なのでしょうか。
Q55■ 手続不備と懲戒解雇の有効性
 懲戒解雇の手続の不備が論点になる場合、労働者側から具体的にどのような主張が
 なされますか。また、手続に瑕疵がある場合、どの程度であれば許容されるでしょ
 うか。さらに、これらを踏まえ実務上どのような点に留意して懲戒解雇を実施すべ
 きでしょうか。
Q56■ 就業規則の周知と懲戒解雇
 非違行為を行った労働者に対して懲戒解雇を行うことを検討していますが、懲戒解
 雇の有効性が争われた場合に就業規則の周知が争われることはあるでしょうか。周
 知性について立証できなかった場合、懲戒解雇の効力はどうなるのでしょうか。
Q57■ 職務上の不正行為
 刑事事件化まではしない程度の職務上の不正行為に対する懲戒解雇にあたり、有効
 ・無効を分けるポイントはどのような点に見られますか。

第3章 退職勧奨
Q58■ 退職の意思表示(総論)
 非違行為が発覚した社員に対し、退職勧奨面談を実施しました。本人からの言い分
 もあり面談は₁時間に及びましたが、最終的に本人が「退職します」と言ったので、
 後日、退職願を出してもらうことにしました。
 ところが、₁週間経ってから、本人が退職をしないと言い始め、弁護士から内容証
 明も届いています。口頭でのやり取りでは、退職合意が成立しないのでしょうか。
Q59■ 口頭での退職の意思表示
 当店の従業員はシフト制を採用しており、事前に従業員の勤務日の希望を聞いたう
 えで、毎月の勤務シフトを決めることにしています。
 あるとき、バイトリーダーだった従業員Aが、シフトを急激に減らす申告をし、シ
 フトがほぼなくなりました。私からAに対し、「もうこれで来ないのか」と尋ねた
 ところ、「もう来ない」「今月末か来月半ばには辞める」と言いました。
 口頭で退職の申出を受けたので、当該従業員はもう退職したものと扱ってよいでし
 ょうか。
Q60■ 書面による退職合意の有効性の争い方
 労働者から書面で退職願、退職届などが提出された場合、退職合意の有効性はどの
 ような判断基準によって決められますか。
Q61■ 懲戒解雇を予告したうえでの退職勧奨
 当社(Y)は、社員のXが暴行行為を働いたことを理由に退職勧奨を実施しました
 が、その際Yの代表が、「全部録画されているから」「それも映ってます」「映像
 を全部分析して、あなたが言ったことも全部暴いて」「応諾しないのであればもう
 私が出ているから、就業拒否で自宅待機。で、懲戒解雇」などと述べました。その
 結果、Xは観念して退職届を提出しましたが、その後になって、実際には映像が撮
 られていなかったことを理由に退職届の有効性を否定しています。退職届を提出し
 ている以上、後から有効性を覆すことはできないのではないでしょうか。
Q62■ メンタル不調者の対応①―退職合意は有効でも退職勧奨は違法とされた例
 Yは運送事業を行う会社です。新たに採用した社員Xは、精神障害等級3級の認定
 を受けていました。現場事業所で採用後、Y幹部は、Xが障害者であることに気が
 つき、Xが睡眠薬を服用しているのは問題であると考え、Xに対し、雇用は難しい
 ので退職手続をとってほしいと告げました。これによって、Xは退職届を提出しま
 した。
 Xは自発的に退職届を提出しているので、Yの対応には特に違法性はないと考えて
 よいでしょうか。
Q63■ メンタル不調者の対応②―メンタル不調者への注意指導の留意点
 社員Xが、女性社員に性的な写真を送る、自身のリストカットした写真を他人に送
 る、といった問題行動をとっていることが分かりました。会社は、Xが過去に自殺
 をほのめかすなどしたことから、精神的不調をかかえていることを把握していたの
 ですが、そうはいってもXの問題行動は見逃せないので、Xに対し、注意指導する
 とともに、再び問題行動をとったときには解雇をする旨警告をしました。このよう
 な指導をすることは問題ないでしょうか。
 また、Xが異動を希望したものの、異動の根拠があるわけではないので、拒絶しま
 した。すると、Xは異動が認められないならば会社を辞めると述べています。会社
 は、Xの異動を認めなければならないでしょうか。
Q64■ 問題社員への退職勧奨①―退職勧奨の方法
 問題社員に対する退職勧奨を上手く進める方法とはどのようなものでしょうか。
Q65■ 問題社員への退職勧奨②―解決金の支払いなしで退職させる方法
 上長の言うことに従わず、独断先行で行動したり、業務の効率が著しく悪かったり
 する問題社員がいます。これまで何度も注意や指導を続けてきましたが、一向にパ
 フォーマンスも、勤務態度も改善しません。このような社員に対して退職勧奨をす
 る場合でも、退職加算金などを一定程度用意しなければならないのでしょうか。
Q66■ 私生活上の行動を理由とした退職勧奨
 プライベートで問題行動を起こした場合や、上長と個人的にそりが合わない場合な
 ど、解雇事由は認められないものの、社内秩序の維持の観点から退職してほしい社
 員がいる場合に、退職勧奨をすることは認められますか。
 また、そのようなケースで退職勧奨をするときに気をつけるポイントはありますか。
Q67■ 退職勧奨の違法性の判断基準
 退職勧奨が違法になるのはどのようなときでしょうか。
 例えば、業務縮小の結果、元々担当していた業務がなくなった社員に退職勧奨する
 ことは可能でしょうか。
Q68■ 退職をどこまで強く説得できるか
 業務上の問題行為が見られる社員に辞めてもらいたいと思います。率直に「会社内
 で新しい業務を任せることができないので、転職を考えてほしい」等と伝えて、退
 職願を書いてもらってもよいのでしょうか。また、退職願を書かない場合は、どの
 ように説得をすればよいのでしょうか。

第4章 雇止め
Q69■ 契約更新の合理的期待と更新上限
 当社では、正社員のように恒常的な雇用ではなく、3年や5年などの勤続期間を上限
 とする形で契約社員を採用し、有期労働契約を締結したいと考えています。求人段
 階からそのことを明示し、雇用契約書でも明示しますが、その上限がくれば、契約
 社員との労働契約を終了させることはできるのでしょうか。
Q70■ 不更新条項の新たな合意と契約更新の合理的期待
  当社では、これまで契約社員との間で契約更新上限の定めのない有期労働契約を
 締結し、その契約社員に、A事業所のZ社向けの商品配送業務に従事してもらって
 いました。
 ところが、当社はZ社向けの商品配送業務を失注し、A事業所で行う業務がなくな
 り、近い将来、A事業所を閉鎖する見込みとなりました。それを踏まえ、A事業所
 で勤務する契約社員に対し、その見込みと次期の契約期間満了後の契約更新がない
 ことを説明したうえで、不更新条項を定めた有期労働契約を締結しました。
 そのような不更新条項に基づき契約社員との労働契約を終了させることはできるの
 でしょうか。
Q71■ 更新上限の事後導入と雇止め
 これまで当社では、更新基準はあるものの、更新上限の定めのない有期労働契約を
 締結し、契約社員の方々に勤務してもらってきましたが、この度、当社での契約社
 員の活用方針を変更することとし、今後は、契約通算期間は₅年を上限、当社として
 5年を超えて勤務してもらいたい契約社員の方には、正社員登用試験の受験を案内し
 、その試験に通れば正社員に登用される制度を導入することとしました。
 そのため、次回の契約更新から、これまで当社で契約社員として勤務してきた方も
 含め、一律、契約通算期間₅年を上限とする有期労働契約を締結する予定ですが、こ
 の更新上限は有効なのでしょうか。
Q72■ コロナ禍による業務縮小と雇止めの有効性
 当社は、台湾に本社を置く航空会社です。日本には日本支社を設置し、日本・台湾
 路線にのみ乗務する日本人客室乗務員を採用しています。客室乗務員の雇用期間は
 1年間ですが、契約を3回更新し4年を満了した場合は、正社員の客室乗務員に登用さ
 れることがあります。
 Aを含む24名は、令和元(2019)年9月22日、日本人客室乗務員として採用され、
 上記の制度に従い1年間の有期労働契約を締結しました(雇用期間は令和元(2019)
 年9月22日から令和2(2020)年9月30日まで)。試用期間として採用直後に2か月間
 の初期訓練を受けた後、日本・台湾路線に乗務していましたが、令和2(2020)年
 1月頃からの新型コロナウイルス感染症拡大による世界的なパンデミックの発生に
 より、同月以降、世界の航空旅客需要は著しく減少しました。そして、同年3月17
 日頃、台湾政府が日本人を含む外国人(非台湾籍)に対する入境規制措置を実施し
 たため、Aを含む成田ベースの日本人客室乗務員は、それ以降、日本・台湾路線の
 旅客便への乗務ができなくなり休業となりました。
 その後も当社の航空旅客事業は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により大幅な
 収益低下が生じ、Aを含む24名の契約期間が満了する同年₉月の時点でも、その状況
 の好転はうかがわれない状況です。そのため、当社としては、Aを含む24名の有期
 労働契約を、同年₉月30日の期間満了をもって終了させたいのですが、それは可能で
 しょうか。
Q73■ 勤務態度に問題のある労働者の雇止め
 協調性なく勤務態度に問題がある契約社員につき、これまで何度も注意指導してき
 たのですが、注意を素直に受け入れず反発し、改善がありません。そのため、期間
 満了をもって雇止めをしたいのですが、注意すべきことはありますか。
Q74■ 初回契約での雇止めか、複数回更新後の雇止めかでの違い
 注意しても勤務態度や協調性の問題に改善が見られない契約社員につき、初回の有
 期労働契約で雇止めをすることを考えていますが、初回での雇止めと、複数回更新
 後の雇止めとで、何か違いはありますか。
Q75■ 同僚への暴言等のハラスメント行為がある労働者の雇止め
 当社に勤務する契約社員のAは、₁回目の有期労働契約(6か月)では勤務態度に大
 きな問題はなかったものの、₂回目の有期労働契約(6か月)を履行する中で、同僚
 のIに対し、トイレに30分隠れてさぼっていると言い出してIの席まで行き「また
 トイレに隠れていたのか」「給料返せ」などと大声で怒鳴りつけました。当社で調
 査しましたが、Iの不正行為は認められませんでした。
 その調査結果をAに伝えても、Aは、納得せず、「時間稼ぎをしている給料泥棒を
 見逃しておけない」などと述べ、Iへの暴言等を継続しました。
 当社としては、注意指導しても暴言等が直らないAについて、契約期間満了をもっ
 て契約終了としたいのですが、それは可能でしょうか。
Q76■ 定年後再雇用となった労働者の65歳を上限とする雇止めの有効性
 当社では、60歳定年制を採用しており、65歳までは、期間1年の有期労働契約を更
 新する形で、高年法に定める継続雇用を確保しています。この当社の取扱いについ
 て、定年後再雇用規定を定め運用していますが、その規定では65歳まで継続雇用す
 ることがあり得ることを定めているものの、65歳以降については、何も定めていま
 せん。
 当社では、原則として65歳以降の雇用はありません。ただ、専門知識が必要な業務
 などにつき、当社の事情から、例外的に65歳以降の雇用をオファーすることがあり
 ます。しかし、このオファーがあるかはケースバイケースです。
 当社にて勤務し、60歳定年後の再雇用として、1年の有期労働契約を更新してきた
 Aがこの度65歳を迎えます。当社としては原則どおり、65歳をもってAとの雇用終
 了(雇止め)を考えていますが、Aは、同僚のBが67歳になっても働いているので
 自分も65歳以降も働きたいと希望しています。それでも当社は原則どおり、Aとの
 有期労働契約を65歳をもって終了させることはできるのでしょうか。
Q77■ 有期労働契約の更新に伴う労働条件の変更
 学習塾を営む当社では、契約社員(予備校講師)であるAに、これまで1年契約で
 直近は8コマの授業を担当してもらいました。
 ところが、生徒に授業アンケートを取ったところ、Aの授業は評判が悪く、勤務態
 度や当社施設内での問題言動もありました。
 それらを踏まえ、次の契約更新(₁年契約)でAに担当してもらうコマ数は、6コマ
 に減らして契約更新を考えていますが、このような更新に伴い、従前と異なる労働
 条件を提示することは許されるのでしょうか。
Q78■ 成績不良・能力不足である労働者の雇止めの可否
 当社は、ソフトウェア開発の受託・請負や人材派遣等のビジネスを営んでおり、シ
 ステムエンジニアはそれなりに人材がいます。しかし、その人材を他社に売り込む
 営業人材が少ないため、営業の即戦力として、Aを1年間の有期労働契約で採用しま
 した。
 Aは、当社のシステムエンジニアの派遣先を見つけてもらうことを見込んでの採用
 です。採用面接でのAの説明によれば、Aは、大手企業であるDグループにつてが
 あるとのことで、同グループへの営業ですぐに実績があげられるようなことを言っ
 ていました。
 ところが、入社後のAは、年間約190万円もの営業経費を使ったのに、当社のシステ
 ムエンジニアの派遣先を見つけることができず、1年の契約期間中、営業実績を1件
 もあげられませんでした。このような事態は、採用経緯から想定していません。
 そのため、Aとの有期労働契約は更新せず、雇止めとしたいのですが、これは可能
 でしょうか。
Q79■ 協調性のない労働者の雇止め
 当社の契約社員Aは、自己に割り当てられた業務の遂行能力は高いのですが、組織
 の一員として同僚と協力・協調して働くのに難があり、中傷に当たり得る表現も交
 え、同僚らを厳しく批判するメールを送ったりしていました。
 当社としては、Aの業務遂行能力を買って、これまで契約更新を繰り返してきまし
 たが、注意指導しても言動に改善がないため、チーム内の同僚の士気が下がり、皆
 がAに対して必要以上に気を遣い、Aに仕事を頼みにくい状況になっています。そ
 のような状況の中で、Aは無断欠勤をするなどしたため、上司が複数回注意しまし
 たが、Aに改善は見られず、相変わらず罵倒や中傷に当たる表現を用いて同僚らを
 批判するメール送信を続けています。
 さすがに当社としては、これ以上Aとの間の信頼関係を築けません。そのため、A
 との有期労働契約を次回更新せず雇止めとしたいのですが、可能でしょうか。
Q80■ 登録型派遣における派遣契約終了に伴う雇止めの可否
 派遣会社である当社では、いわゆる登録型派遣(当社から仕事を案内して就業決定
 し、派遣先企業と当社間で締結する派遣契約と同じ期間だけ当社と有期労働契約を
 結ぶ形態)で派遣社員と有期労働契約を締結しています。
 派遣先企業との間の派遣契約が契約期間満了により終了するため、それに伴い当社
 と派遣社員との間の有期労働契約も期間満了で終了させたいのですが、その終了は
 有効ですか。
Q81■ 一度退職を受け入れた労働者からの更新申入れに対する雇止め
 当社は、障がい者児童の発達支援教室等を営む株式会社です。令和元(2019)年10
 月1日、Aとの間で有期労働契約(期間2か月)を締結し、Aには児童指導員として
 勤務してもらっていました。
 Aとの雇用契約は、同年11月以降、各月1日に更新してきましたが、令和2(2020)
 年1月頃から新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、同年4月7日から緊急事態宣
 言が発令されたことに伴い、その前日である同月6日、Aから当社に対し、「緊急
 事態宣言発出に伴い子供に新型コロナウイルスを伝播させることを恐れている」
 ので翌7日から休業したい、期間は改めて相談したい、などと連絡がありました。
 そして、Aは、実際に同月7日出勤しなかったため、同日、当社はAに対し、当面
 出勤できないことを了解し、いつまで出勤できないか尋ねました。
 しかし、Aからは、その時点では分からないとの返答がありました。当社として
 は、無期限で出勤できない状況を認めることはできず、Aには社会保険は個人負
 担もかかるので3月いっぱいで終了、改めて働けるようになったら連絡くださいと
 伝えました。同年4月8日に、当社からAにもう出勤できないか尋ねても、Aは、
 出勤の意思を示さず、退職を前提とする行為をしていました。
 その後、当社ではAの対応を顧問弁護士に相談したところ、日付を遡った雇止め
 はできないとの助言を受けたので、同年4月23日、同年5月末日までは契約更新す
 るものの、それ以降は更新しない旨を書面で通知しました(この通知を、以下「
 本件通知」といいます)。その通知以降も、Aの言動は変わらず、一貫して出勤
 の意思を示さず、退職を前提とする行為をしていました。
 ところが、同年5月28日になって、Aから突然、契約更新の申込みがありました。
 Aは、更新しても直ちに就労する意思はないようですので、当社としては、その
 更新を拒絶したいのですが、可能でしょうか。
Q82■ 有期労働契約の試用期間的利用
 生命保険会社である当社では、営業職員としての採用を希望する者に、次のステ
 ップを経たうえで、営業職員として無期労働契約を締結できるか判断する制度を
 導入しています。
 ① 最初に、アドバイザー見習候補契約(期間1か月)を締結し、研修を受け、
 生命保険一般課程試験の合格を目指す。
 ② 生命保険一般課程試験に合格し、健康状況が良好である等の一定の条件を満
 たした者との間で、アドバイザー見習契約(有期労働契約)を締結する。アドバ
 イザー見習契約は、契約期間が第Ⅰ期間(1か月)と第Ⅱ期間(更新₂回で、契約
 の通算期間は₃か月が上限)に分かれている。
 ③ アドバイザー見習契約の第Ⅱ期間中に、営業職員の無期雇用として採用され
 るための格付基準を満たし、かつ当社が適当と認めた者は、当社との間で無期労
 働契約を締結する。同格付基準を満たさなかった者は、第Ⅱ期間の契約期間満了
 をもって、雇用終了(雇止め)となる。
 この採用枠組みについて、当社では、上記①のアドバイザー見習候補契約の締結
 前に、説明会などを開いて説明したうえで、アドバイザー見習候補契約を締結し
 ています。
 このような枠組みに従い、営業職員の無期雇用として採用されるための格付基準
 を満たさなかった者を、第Ⅱ期間の契約期間満了をもって雇用終了(雇止め)と
 することは可能でしょうか。
Q83■ 65歳定年退職後の再雇用の要否
 当社では無期の労働契約につき65歳定年制を敷いていますが、定年後も継続して
 当社で勤務してほしい労働者については、期間を定めて再雇用することがありま
 す。誰を65歳定年後に再雇用するかについて、当社は自由に判断することができ
 」るのでしょうか。
 また、65歳定年後も期間を定めて再雇用することがあることにつき、就業規則で
 その旨規定している場合とそうでない場合とで、何か違いはあるでしょうか。
Q84■ 裁判で雇止めが無効になった場合に、雇止めになった者が既に別会社へ転職
 していた場合の処理
 当社は、介護の仕事を紹介する人材紹介会社です。契約社員のAは、平成31
 (2019)年2月3日、当社との間で、次の内容の有期労働契約を締結し、Aは、B
 有料老人ホーム(派遣先)に派遣され、派遣就労していました。
  業務内容:介護業務全般
  派遣・雇用期間:平成31年2月1日から平成31年3月31日(57日)
  就業時間:午後5時~翌午前10時(実働16時間)
  給与:基本時給2000円、普通残時給2500円、深夜時給3000円、深夜残時給350
     0円
 初回の契約期間におけるAの業務遂行には、派遣先で事故を起こしたのに当社へ
 報告せず、また当社業務に支障を来す長話を繰り返すなどの問題がありました。
 注意指導しても反省や改善がないので、当社では、Aを初回更新時に雇止めする
 意向を有していました。
 しかし、それが当社の事務職員に共有されておらず、その事務職員からAに対し
 、平成31(2019)年2月21日、上記契約が更新される内容のメールを送信してし
 まいました。これに気付いた当社は、Aに対し、同年3月6日、新たな仕事の紹介
 をしないこと、そのため同月31日をもって雇止めとなることを通知しました。
 同年3月31日で雇止めとなったAは、同年4月16日から、別の派遣会社と有期労働
 契約(更新あり)を締結し、夜勤専従の介護福祉士として稼働しています。その
 中で、Aは、令和元(2019)年7月4日、東京地裁に労働審判を申し立て、労働審
 判委員会が行った審判にAが異議を申し立てたため訴訟に移行しました。その訴
 訟では、残念ながら当社の主張が認められず、雇止め無効の判決が令和4(2022)
 年6月22日に出ました。その後、高裁・最高裁でも争われましたが、結局、令和5
 (2023)年9月28日の上告棄却により、雇止め無効の判決が確定しました。
 このように、雇止めになった者が既に転職していた後に、裁判で雇止めが無効に
 なった場合、どのような処理になるのでしょうか。

キーワード索引(第Ⅱ巻)
判例索引(第Ⅱ巻)

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