Legalscape Store
Product Image

争点整理と要件事実


著者・編者永島 賢也

発行元青林書院

発行年月日2017(平成29)年03月30日


書籍説明

※こちらの書籍は PDF 形式でのご提供となります。

※本書籍は『Legalscape』を有料契約中のお客様の場合、購入せず閲覧可能な書籍です。

■解説

本書のビジョンは民事訴訟の活性化である!!
●法的三段論法がなされる以前の段階にあって判決結果に対して決定的な影響
 を及ぼす法的な思考過程に着目し,争点整理手続において何を口頭でやり取
 りすべきかについて圧倒的な筆致で綴る訴訟実務家による意欲作!!

はしがき
   
 本書のビジョンは民事裁判の活性化である。そのため,争点整理の道標とな
る要件事実や,争点整理手続中に示される暫定的な心証開示,訴訟代理人や担
当裁判官との間でなされる口頭でのやり取りなどに触れながら述べている。
法的(判決)三段論法に代表される法的思考は,今や争点整理手続を通じた要
件事実論的な裁判実務によってミクロ正当化の領域に閉じ込められてしまいそ
うにも見える。本書は改めて法的思考の活動領域を回復し要件事実論の内側と
外側とを行ったり来たり自由にできるようになることを目指している。私の筆
力では甚だ力不足であるが,本書によって既に見慣れたはずのものが見知らぬ
もののように見えてきたとすればひとまずは成功といってもよいかもしれない。
法的(判決)三段論法は論理ではない。あくまで論理「風」のものであって,
演繹ではない。▼続きを読む


アリストテレス流の論理ではもとより,現代の述語論理をもってしても法的
(判決)三段論法を捉えることはできない。こうして,見慣れた法的(判決)
三段論法が見知らぬものに変わっていくとき,法的思考は活性化するきっかけ
をつかむのではないかと思われる。一度,見知らぬものに見えてしまうと,
もう同じところへ戻ることはできないかもしれない。しかし,活性化とはもと
もとそういう不安さえも前進するエネルギーに換えていくものであろう。
法的思考は発見の過程と正当化の過程に区別することができ,正当化の過程は
マクロ正当化とミクロ正当化に区別することができる。発見の過程を単なる心
理的なものと位置づけるのではなく,生活事態と規範仮説との間を行ったり来
たりしながら暗黙知の働く領域と位置づけてみてはどうか。マクロ正当化の過
程では発見の過程で見出された普遍化可能性等のある規範仮説が,主に制定法
から解釈によって導き出される複数の法規範から対応するものを見つけ出せる
かという領域と位置づけてみてはどうか。大前提たる法規範の正当化のほか,
小前提たる事実認定の正当化もマクロ正当化を構成する過程と位置づけてみて
はどうか。そのうえで大前提と小前提を行ったり来たりする視線の往復をアブ
ダクションとインダクションの繰り返しの過程と描いてみてはどうか。そのう
えで最終的にディダクション風に整えられたあたかも検算の役割を果たすよう
なものが法的(判決)三段論法と呼ばれてきたものではないか。そして,演繹
風の法的(判決)三段論法がなされる場面以外でも,原告訴訟代理人,被告訴
訟代理人,裁判所の三者間で対話が可能になれば,法的思考の全体で裁判過程
に関わり合うことができるのではないか。そのための方法として口頭でのやり
取りという手法は使えないであろうか。ミクロ正当化だけでなく,マクロ正当
化や発見の過程まで対話可能であるとするならば,価値判断にかかわるような
やり取りが成り立つ前提が必要になるであろう。そのためには法とは何らかの
客観的なるもの,各人の生を実現できるような公正さを目指すものと想定され
なければならないのではないか。現代社会においてもはや素朴な自然法論に回
帰することが難しいとすれば,仮に何らかの法実証主義的な視点で見るとして
もなお客観的なるものを志向できる前提が必要になるのではないか。現在の民
事裁判実務の主流といえる要件事実を意識した争点整理という観点から法的思
考のできるだけ全容を捉えてみたいと思う。
本書の成り立ちには高橋文彦教授,嶋津格名誉教授,亀本洋教授に貴重なご示
唆をいただいた。ここに記して謝意を表したい。また,とくに第10章について
は,日本弁護士連合会の民事裁判手続に関する委員会や,同委員会を通じて実
施されている最高裁民事局との協議会,各地の単位会での意見交換会,東京弁
護士会の民事訴訟問題等特別委員会や研修講座における私の経験が基礎となっ
ている。各委員会の弁護士の委員や,裁判官,研究者などから学ぶことができ
たことは誠に幸運であった。そして,なにより本書の原稿の出版を勧めていた
だいた松嶋隆弘教授に心から感謝の気持ちを伝えたい。
本書は,序章のほか12の章からなっている。最終章は,第1章から第11章まで
(第9章を除く)のエッセンスを短文形式でまとめたものである。第9章は比
較的最近の最高裁判決を具体例として用いたものである(最判平成27・4・9
と同28・3・1である)。原稿が出来上がった当初は12章のみであったが,本
書がめざす活性化の具体例があったほうがわかりやすいと考え序章を最後に執
筆した。モデルとなった今井和男先生(虎門中央法律事務所代表弁護士)には
日頃からその活動に尊敬の念を抱いており,改めて感謝の意を伝えたい。
最後に青林書院の長島晴美氏の力添えと,宮根茂樹編集長に短い期間である
にもかかわらず詳細な原稿チェックをしていただいたことに改めて謝意を表し
たい。宮根氏の力がなければ,この時期にこの原稿が書籍になることはなかっ
たと思う。本当にありがたいと感じている。

平成29年1月
筑波アカデミア法律事務所にて   
弁護士 永島賢也 


■著者
永島賢也:弁護士(筑波アカデミア法律事務所)

 

■書籍内容

目 次
  
序章 ある弁護士
Ⅰ できるはずです
Ⅱ 法的三段論法以前
Ⅲ 次章以降の論述

第1章 争点整理と要件事実
Ⅰ 法規範
Ⅱ 争点
Ⅲ 要件事実
Ⅳ 争点整理
Ⅴ 立証命題
Ⅵ 法 命 題
Ⅶ 価値判断
Ⅷ 法実証主義
Ⅸ 常識とコード

第2章 三 段 論 法 
Ⅰ 三段論法
Ⅱ 伝統的論理学
Ⅲ 述語論理
Ⅳ 直観主義論理

第3章
 法的三段論法
Ⅰ 法的三段論法
Ⅱ 発見の過程と正当化の過程
Ⅲ マクロ正当化とミクロ正当化

第4章 ミクロ正当化
Ⅰ 個体問題
Ⅱ n項問題
Ⅲ 仮言三段論法
Ⅳ 述語論理
Ⅴ 述語論理の法的三段論法
Ⅵ 統一科学運動
Ⅶ P → Q
Ⅷ 覆滅可能性

第5章 トゥールミンの議論図式
Ⅰ 議論図式
Ⅱ D ⇒ C
Ⅲ 抗弁の性質
Ⅳ 予備的請求原因
Ⅴ 議論図式との関係
Ⅵ 要件事実と議論図式
Ⅶ 議論図式に沿った法的思考
Ⅷ ハリーの国籍と争点整理
Ⅸ 議論領域と裏づけ(B)
Ⅹ 議論図式とマクロとミクロ

第6章 視線の往復
Ⅰ 視線の往復
Ⅱ 裁判過程
Ⅲ 事実問題と法的問題
Ⅳ アブダクション
Ⅴ 可 謬 性
Ⅵ 法律相談とアブダクション
Ⅶ 法律相談とインダクション
Ⅷ 法律相談とディダクション
Ⅸ 裁判所の場合
Ⅹ 被告訴訟代理人の場合
ⅩⅠ 三者の重なり
ⅩⅡ ディダクション風

第7章 マクロ正当化
Ⅰ 大前提の正当化
Ⅱ 小前提の正当化

第8章 発見の過程
Ⅰ オーバーラップする視線の往復
Ⅱ 内面化と暗黙知
Ⅲ 発見の過程における視線の往復
Ⅳ 生活事態と規範仮説
Ⅴ 探求のパラドクスの解
Ⅵ 束縛する正当化の過程
Ⅶ 法律相談における発見の過程
Ⅷ 三者の重なり
Ⅸ たとえば公正さ

第9章 具体例での検討
Ⅰ 動的かつ複雑な様相
Ⅱ 事案の概要
Ⅲ 規範仮説を立てる
Ⅳ 移行しない規範仮説
Ⅴ 両親の責任
Ⅵ 相当因果関係
Ⅶ 相当程度の可能性の侵害
Ⅷ 因果関係の肯定
Ⅸ 減額の方法
Ⅹ 第1審と第2審
ⅩⅠ 発見の過程とマクロ正当化の過程
ⅩⅡ ミクロ正当化の過程
ⅩⅢ 監督義務者の責任否定という結論
ⅩⅠⅤ 徘徊事件判決
ⅩⅤ 徘徊事件第1審
ⅩⅤⅠ  徘徊事件第2審(妻)
ⅩⅤⅡ  徘徊事件第2審(長男)
ⅩⅤⅢ  波   紋
ⅩⅠⅩ  迫り来る予期
ⅩⅩ 最高裁のマクロ正当化
ⅩⅩⅠ  ミクロ正当化
ⅩⅩⅡ  徘徊事件最高裁
ⅩⅩⅢ  発見の過程の推測
ⅩⅩⅨ  マクロ正当化の過程の推測
ⅩⅩⅤ ミクロ正当化
ⅩⅩⅥ  三者独自の法的思考

第10章 口頭でのやり取り
Ⅰ 道標としての要件事実
Ⅱ 争点整理手続の傾向性
Ⅲ 対話のなされない領域
Ⅳ 書面にしにくい話題
Ⅴ 口頭でのやり取り
Ⅵ ノン・コミットメント・ルール
Ⅶ 序盤・中盤・終盤
Ⅷ イニシアティブ
Ⅸ 指示待ち弁護士
Ⅹ 懸念の表明
ⅩⅠ 心証形成時期のコントロール
ⅩⅡ 物語的進行
ⅩⅢ 批判的意見
ⅩⅣ 次回書面で……
ⅩⅤ 重みづけ
ⅩⅤⅠ  心証開示
ⅩⅤⅡ  深刻な問題
ⅩⅤⅢ  反発と自縛
ⅩⅠⅩ  2つの心証開示の区別
ⅩⅩ  暫定的な心証が意味するもの
ⅩⅩⅠ  心証を開示しない裁判官
ⅩⅩⅡ  法的観点指摘義務
ⅩⅩⅢ  三者三様の法的思考
ⅩⅩⅨ  なぞかけ
ⅩⅩⅤ  締切りのメリット
ⅩⅩⅥ  手続保障と迅速化

第11章 要件事実論
Ⅰ 要件事実論(「裁判規範」としての民法説)
Ⅱ 要件事実論(包括説・手法説)
Ⅲ 法規不適用説と証明責任規範説
Ⅳ 証明度に関する規範
Ⅴ 要件事実論の考え方
Ⅵ 法律効果の発生時期
Ⅶ 証明可能性というメガネ
Ⅷ 要件事実論の真理概念
Ⅸ 排 中 律
Ⅹ 対   比
ⅩⅠ 評価的要件という視点
ⅩⅡ 思考の癖
ⅩⅢ 事実の蓋然性と心証形成の度合い
ⅩⅣ 裁判外と裁判内
ⅩⅤ 判決起案の手引との整合性
ⅩⅤⅠ  判決理由は誰のため
ⅩⅤⅡ  それらしく間違う
ⅩⅤⅢ  主張責任
ⅩⅠⅩ  証明責任判決
ⅩⅩ  事案解明協力義務
ⅩⅩⅠ  要件事実と要件事実論

第12章 まとめ

¥3,520(税込)
至誠堂書店
紙の書籍を購入する
デジタル書籍の新刊を初めてご購入される方へ 詳しくはコチラ